大学生のとき

ぼくは推薦で大学に入った。部活の成績が優秀だったし、授業態度も悪くなく、内申点も申し分なかった。

大学に入ってから二つのサークルに入った。ボランティア系と芸術系。どちらも楽しかった。

芸術のサークルで、ひとつ学年が上の女性の先輩から気に入られた。美人だった。何度か、他の先輩も一緒になって遊んでもらって、二人で遊ぶことも増えた。告白されて、付き合うことになった。

ぼくは舞い上がっていた。それまで恋人らしい恋人がいなかったぼくに、可愛い彼女ができた。嬉しかった。

ところが、彼女は少しおかしかった。睡眠薬を常用していた。それはべつにいい。だが、毎日のようにぼくの家に入り浸って、家事もせず、ゲームばかりしていて、ぼくが大学に行くのを嫌がるようになった。その頃は毎晩のように性行為をしていて、彼女らしい彼女がいなかったぼくは、それが普通なのだと思っていた。

彼女は年上だったから、ぼくより先に就活が始まった。行きたい会社があったが、受からなかった。田舎で育ち、進学校に進み、大学も有名どころまで行ったのは、全て就活のためだったらしい。そこまで気合いを入れていたから、とても落ち込んでいた。ぼくはまだ就活が始まる前で大学生活を謳歌していたから、そのギャップも彼女を苦しめていたのだろう。

そして、彼女の精神が怪しくなった。夜、何も言わずに出ていこうとする。それに気付いてぼくが止める。話を聞いてみると、死に場所を探しに行こうとしていたとのこと。そんなことが何度もあった。とうとう、常用していた睡眠薬を何倍もの量で飲んでしまった。幸い、死ぬことはないようだったが、死んだように眠る彼女を見て、ぼくは恐ろしくなった。

次の日はバイトだったが、そのままにしておくと死んでしまいそうだったし、なにより本人からそう言われたので、手足をガムテープで縛ってバイトに行った。たぶん、ぼくもおかしくなっていたのだと思う。バイトが終わり、ケータイを見るとメールがきていた。彼女の遺書だった。ぼくは、車を走らせ彼女の部屋に急いだ。外から見るとまだ電気が点いていたから、生きてると思った。部屋に入ると、彼女は首を吊っていた。あの光景は一生忘れられない。カーテンレールにコートのベルトを通し、首を吊っていた。足元には椅子が転がっている。だが、まだ時間が経っていないのだろう、苦しそうに息をしていた。ぼくは包丁を持ち出してベルトを切った。そして、親御さんに電話をした。

翌日は都内まで出て、精神科に連れていった。ゆうメンタルクリニックだ。漫画でしか知らない医者だったが、話を聞いてもらえると思った。だが、自殺未遂までしてしまった人間は手に負えない、つまり入院措置が必要だ、とのことだった。仕方なく、別の病院に連れていった。

彼女の親御さんに来てもらい、話をした。こうなってしまった原因とか、今後のこととか、色々と話した。大学生のぼくには荷が重かったが、彼女のためなら、と思い、知ってることを一生懸命話した。

彼女は片親だった。幼い頃に、両親が離婚したらしい。それ故に父親からの愛情が不足していたようだった。美人だったし、男を作るのには不自由しなかったのだろう、ぼくの前にも付き合っていた男が何人かいたし、一夜限りの関係も持ったことがあったらしい。それくらい、男からの愛情に飢えていたのだ。それが全部、ぼくに向かっていた。重かった。

それからしばらくして、彼女は自殺未遂こそしないものの、拒食症になった。体重は35kg程になり、肋が浮き出るくらい痩せてしまった。その頃からセックスレスになっていた。寝ているうちに勝手に挿入して済ませていいよ、とも言っていたが、そんなことができるはずもなかった。

3ヶ月ほどそんな生活が続いただろうか。ぼくは、デートにも行けず、セックスもできない彼女と今後を続けていく自信が無くなっていた。別れ話を切り出した。包丁でも持ち出されるかと思っていたが、すんなりと了承された。その日、ぼくは友人の家で泣いた。

程なくして、彼女が住んでいた街を歩いていると、見覚えのある顔を見た。彼女だったが、知らない男と嬉しそうに歩いていた。後から聞いた話だが、バイト先で知り合った男と浮気をしていたらしい。

それから、ぼくは女性を信用できなくなった。皆、浮気するものだと思うようになった。要らなくなったら見捨てられるのだと思った。あれだけ一生懸命救おうとしたのに、ぼくは必要なかったのだ。

幸い、ぼくには男友達が何人かいたから、彼らと飲んで騒いで、またアニメや特撮を見て、なんとか持ち直した。

ただ、いまでも、あまり女性は信用できない。特に、昔恋人がいたひとは、その恋人のことが忘れられないのではとか、そっちと比べているのではないかとか、そんなことばかり考えてしまう。もちろん、女友達も何人かいるから、そんなひとばかりではないと思ってはいるのだが、いまだに心の底からの信用はできないでいる。